【遠い土地の暮らしを思う】酒蔵が感じる、冬の訪れについて。岩手・吾妻嶺酒造さんとのやりとり

【遠い土地の暮らしを思う】酒蔵が感じる、冬の訪れについて。岩手・吾妻嶺酒造さんとのやりとり

かつてはゆるやかに感じられていた季節の移り変わりが、唐突だと感じるようになった近頃。それでも、自然のちょっとした変化に目を配り、私たちの暮らしと四季が地続きにあることを感じたい。

MCKKはそんな思いから、「季節と自然のうつろい」に目を向けられる読み物をお届けしたいと考えました。

自然の営みと共に暮らす、土地に根差した仕事をするものづくり産業や一次産業の方々にお話を伺い、地域における季節のうつろいや暮らしの様子を知ってゆく。読み物を通してさまざまな遠い土地での仕事と暮らしを想うことで、四季と季節への想像力を一緒にひろげていくことができれば。やり取りも情報も早すぎる今の時代の流れのなかで、少しだけゆっくりとした文通のような、お互いの暮らしを気遣い合うようなやり取りが、いろいろな土地の方々とできたらと思います。

第一回のゲストは、岩手県紫波町で酒造りを営む、岩手県最古の酒蔵「吾妻嶺酒造店」代表の佐藤元さん。快活な口調で、紫波町での仕事と暮らしについてお話ししてくださいました。

 

水を触って冷たくないと、酒造りの季節を感じる

「紫波町にいると、奥羽山脈が大きく見えますか?」と聞く私たちに、「最近はやたらと熊が歩いてるのを見かけますよ。そっちのほうがびっくりするなあ」と笑いながら返す佐藤元さん(愛称・げんさん)。まだ現地を訪れたことのない僕たちにも、まちでの暮らしをちゃめっ気たっぷりに教えてくれます。

酒蔵がある岩手県紫波町は、東北有数の「酒のまち」。国内最大規模の杜氏集団である「南部杜氏」の発祥の地として知られ、東根山から流れる豊かな水脈から水を得て、伝統的な酒造りが行われています。なかでも吾妻嶺酒造店は、340年を超える歴史を持つ、由緒正しい蔵のひとつ。

お話を伺った11月初旬ごろ、山のそばにある酒蔵からは、美しい紅葉が見えたのだそう。「今年はあんまり秋がなかったでしょう。急に寒くなる時ほど、紅葉って綺麗にあかく色づくんですよ」。

蔵の近くには東根山がそびえ、奥羽山脈に源がある「滝名川」が流れている。「なぜそこに造り酒屋が建ってるのか?って、大体はそこに美味しい水があるからなんです」と話す元さん。340年の歴史を持つ吾妻嶺酒造店も、かつて200年ほど前までは違う場所に建っていたのを、「こちらの水の方がいい」と場所を移したそう。蔵の近くにある地下水が、酒造りを支えている。

 

「地下水って、夏は冷たいんですよ。地下水の温度変化は少ないから、外気温との差で冷たく感じたり、あたたかく感じたりする」。

紫波町では、11月に入ると地面に霜が降りて、0℃近くまで冷え込む朝もある。

「水を触って“冷たくないな”と思うと、ああ、そろそろ酒造りのシーズンがはじまるな、と思うんです」。

 

秋のない酒造りと、うまく付き合うこと


ここ何年か、長い長い夏が終わったかと思うと、急に気温が下がって、気がつくと冬になっている。都市部ですら感じられる急すぎる季節の変化は、日本酒づくりの仕事にも影響をあたえるという。

「今年は9月下旬くらいまで夏でしたね。10月になってちょっと涼しくなって、過ごしやすいね、と話してたらあっという間に冬みたいになって。いつもなら少しずつ寒くなるにつれて『そろそろだな』って徐々に酒造りのテンションが上がってくるけど、今年は急に『もう!酒造りの季節じゃないか!?』って(笑)」

人も驚く寒暖差は、お米の調子にも現れてくるそう。

「お米が入ってくるでしょう、そうしたらそれを見極めて、今年はどんな品質かなと考える。猛暑の年はお米も夏バテするんです。水分を吸い上げて補給しようとするけど、それができないくらい暑いと痩せ細っちゃう。夏にはもう、『今年はよくないだろうな』と思ってました」。

お米からはじまる酒造り、米の良し悪しは酒蔵にとって大変な出来事だと想像できるけれど、元さんは意外とカラッとした言い回しで話をしてくれる。


「米の調子が悪ければ悪いで、そこに合わせた酒造りができれば、相応にいいものを作れると考えています。寒い時の造り方、暑い時の造り方というものがあるはずで、僕らはそれを探していくしかない。猛暑だ、秋がない、と言っていても、そういう時代に生きている蔵元なんだと思ってできることをやっていきたいと思います」。

実は、吾妻嶺酒造店には340年の歴史がありながら、古い酒造りの資料はあまり残されていないという。だからこそ自分たちの時代の造り方を探しながら、土地と気候に向き合っていこうとする元さんの姿がありました。

「自然って、なんでもうまくできてると思います。霜が降りると寒いな〜と思うけど、そういう時期になると『寒じめほうれん草』っていう美味しいほうれん草が取れるんです。だから、朝起きて霜が降りてるのをみるともう『あ、ほうれん草……』と思っちゃう(笑)」

暗い明るい、悲しい楽しいは自分で決めることができる。元さんが話しているのをみると、自然とそう思わせてもらえる。


「ポジティブに考えていけば、自然現象とは付き合っていけるのかなって思います」。

 

試してみる、食は冒険

お話ししているとつい欲が出て、吾妻嶺酒造店でつくっているお酒のことと、その楽しみ方についても知りたくなってきた私たち。厳選された岩手の酒米と、さまざまなつくりによってつくられるお酒の数々。「あづまみね」をはじめとする銘柄のお酒は、どんなふうに味わうと楽しいんでしょう?

軽い気持ちで「おすすめの飲み方」を伺うと、元さんはピシッとした言葉をかけてくれました。

「そこが一番自由なところで、楽しんでほしいところなんですよ」。

どんなお酒かどうかは、飲んでみないとわからない。人の評価を聞いてお酒の味を知っていくことは、その人の人生を後から歩んでいるのと同じことなんじゃないか、そう言ってくれる元さんの話を聴きながら、「少し、答えを知ろうと急ぎすぎていたのかもしれないな」と感じました。

「どんなお酒なのかな?何を一緒に食べたら合うのかな?ってことを試したり考えたりすることって、それ自体が冒険だと思うんですよ」。

本当のことはみなさんが探してください、そう言う元さんの言葉に思わず、遠い土地からうなづく私たち。紫波町での暮らしだけじゃなく、美味しい酒を造り、食を楽しんできた元さんの暮らしぶりを教えてもらった時間になりました。

 

今回の取材先:吾妻嶺酒造店さん


岩手県紫波町の酒蔵。1684年の創業から南部杜氏最古の蔵として伝統の技を代々引き継ぎ、仕込みからラベル貼りまで丁寧な手造りの酒造りを大切にされています。地元酒米農家との契約栽培により厳選した酒米を使用し、その米の旨みを最大限活かすため、そして豊かな岩手の食材とのマリアージュを愉しむために、あえて吟醸香(果物のようなフルーティな香り)を抑えた玄人好みの造りを心がけているそう。代表銘柄「あづまみね」は、蔵の裏にある「東根山(あずまねさん)」のように、長く飲まれる酒であるようにと願いを込めて名づけられた銘酒です。
https://azumamine.com/

あづまみねの日本酒と地元の食材を心ゆくまで楽しめる、温泉宿で行われる「あづまみねの蔵元を囲む会2026」は2026年3月7日(土)に岩手のホテル森の風 鶯宿にて開催。詳細はwebサイトから
https://azumamine.com/kakomukai2026/

 

MCKKが吾妻嶺酒造と出会うきっかけになったのは、「日本酒の魅力を幅広く知ってほしい」との思いから生まれた吾妻嶺酒造店で生まれる酒粕を活用したスキンケアブランド「1684」。栄養価の高い酒粕を使用し、素材そのものの「美しさ」を活かして作られるスキンケアアイテムです。
https://1684.jp/

 

乾 隼人

1993年生まれ。関西の雑誌編集部で勤務したのち、WEBメディア編集の仕事を経て、フリーランスの編集者・ライターに。土地に根付いた文化と仕事に関心があり、全国を移動しながら「まちづくり」「ローカルビジネス」「食文化」などの取材を行っています。

長野と東京の2拠点生活中。街並みも暮らしの規模感も異なる2つの土地を行き来しながら、読み物をつくります。

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